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第210話 匠

 「そんな、嘘だ」  福田は凍りついたように動かない、それはそうだろう。自分の直属の先輩が二人。それもじゃれ合っているところをみたのだから。  「福田君っ!?どうしてここにいるの?」  叫ぶな上原、俺も驚いてる。  「えっと、落ちたメモを拾ってて立ち上がったところです」  いやそう言う意味じゃない。上原も福田もパニックになってるなこれはと思う。    「俺の部屋で話そうか。蓮、飯はもう少し待ってて」  「蓮」と呼んだ時に福田は驚いたように目を見開いた。そもそも白い大理石の玄関に、同じような色の服を着てしゃがんでいたから同化していたんだ。  もじもじしている部下二人を連れて部屋に戻るとおもむろに切り出した。  「それで、俺に何の用?」  コーヒーを淹れてきますと、上原が立った時に聞いた。  「え?」  「俺に用事でしょう。わざわざ探しに来たんだよね、マンションの住所じゃないのか。さっきのメモは」  「は、はい。実は、横山の事で……」  福田はちらりと上原の方に視線を送る。  「何?上原か?あいつには何を聞かれても良いから言って」  「どうしましょう、言いづらくなってしまったのですが、あの、その、お二人は」  「一緒に暮らしてる。で、横山がどうした?」  一緒に暮らしてると、当たり前のように言うと上原が嬉しそうに笑った。ご両親には悪いがこの場合嘘をついても仕方がない。福田に先を促すとようやく重い口を開いた。  「主任に横山と付き合って下さいとお願いしに来ました」  「は、はあ?」  もう少しで、コーヒーを吹き出すところだった。  「横山と昔、関係があったと聞きました。つまり主任はそっちの方って事ですよね」  福田の言う「そっち」がどっちなのかは、わからないけれど、言いたいことは分かった。

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