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第211話 蓮

 横山の事を主任から聞いてなかったら心臓が止まるところだった、良かった。  下を向いたまま、福田は話を続ける。  「横山は一見軽そうに見えるけど、本当は真面目で一途で、可愛いやつなんです」  その姿があまりにも一生懸命で、何度もあいつは可愛いと繰り返す福田を見ていて可笑しくなってきた。つい我慢できなくなりくすっと小さくわからいがこぼれる。  「ねえ、話に割り込んでごめんね。ところで福田君は、もう横山君に自分の気持ちは伝えたの?」  俺のひとことに主任はにやりと笑い、福田は真っ赤になった。  「好きって真正面から言わなきゃ、あの子には伝わらないかもね」  「俺が今、聞こうと思ってたところだ」  「え、えっ?ええっ?な、ど……うして」  「福田、お前わかりやすいんだよ。上原にもわかるくらい必死だったぞ」  「ずっと片思いなのか?」  主任の質問に福田がこくんと小さく頷いた。  「いつからなの?本人にちゃんと言えば良かったのに」  「小学校からの友人ですよ。今更、言えませんよ。高校で自分の気持ちに気がついて、それからずっとあいつのそばにいて。幸せになってくれたら諦められるって、いつも恋愛の後押しして。でも、長続きしないんです横山は。この人が好きって俺に言ってくるんですが、上手く行っても二カ月。でも今回は本気だからって横山が言うものですから」  「その本気の相手って主任の事だよね?でも、今までの二年間は何もなくて、突然でしょう?横山君はもしかして、福田君を待っているのかもしれないよね」  「え?先輩?それ、どういう意味ですか?」  「長い付き合いで正直になれないのって、お互い様なんじゃないかなって思って。横山君が必ず福田君に相談するのって、もしかして?って思って。諦められないんなら、いっその事告白してみれば?」  主任は黙ってにこにこしている。  しばらく黙って下を向いて考えていた福田が、意を決したように顔を上げた。  「ありがとうございます。告白してみます。そうですね、玉砕してもともとですよね。うん、これから行ってみます」  「若いって良いな」  「蓮、お前がそれ言うかな?」  主任は楽しそうに笑った。その笑顔に安心する。  「あ、主任、先輩。お二人の事はもちろん誰にも言いません。まあ、私の場合は上手く行ったらすぐに噂になると思いますけど、何しろ相手があの横山なので」  それだけ告げると福田は少しだけ優しい笑顔で帰って行った。  「蓮、なんだか疲れたよ。ここ、おいで」  主任が自分の膝の上を軽くたたいた、あれ?これ昼ご飯どうなるのかなと、少し不安になってしまった。

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