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第212話 匠

 ひと騒動あった翌月曜日の昼、面白い光景を見た。  いつものように昼休憩の開始の時間丁度に計ったように横山がやって来た。デスク周りを片付けていた福田が目を上げてその姿を認めた。  「ふ、福田っ、ひ、ひるめし……」  「ああ、横山か。今日は金ないから牛丼でもいいか?」  「お、おうっ」  しどろもどろで、少し赤くなりながら昼食を誘いに来た横山と、堂々とした態度の福田。上手く行ったんだなと思う。  二人並んで歩くその後ろ姿は長く連れ添った夫婦のようでもあり、付き合いたてのカップルのようでもあり不思議な空気感があった。  ふと気がつくと、上原も同じ光景に目をやっていた。仔犬が少し大きくなったように感じた。  振り返った上原が微笑んで言った。  「主任、以前ご馳走していただいたお礼をまだしてませんでしたよね。私に今日のお昼ご飯払わせて下さいませんか」  あの二人が羨ましくなったんだな、こいつ解りやすい。  「珍しい事もあるもんだ、じゃあご馳走になろうかな」  そう言って立ち上がると、上原が嬉しそうに笑った。  定食屋で、向かい合わせで食事をとる。やっぱりこいつの食事の仕方は綺麗だ。  「主任、どうかしましたか?」  仔犬が首をかしげる、そう問われてて驚いた。自分が食事を忘れたように上原を見つめていたと言う事実に気が付いた。  「いや、考え事だ。何でもない」  慌てて残っていた味噌汁の椀を手に取った。

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