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第214話 匠

 七月四日は、上原の誕生日だ。免許証をちらりと見た時に確認しておいた。年に一度の大切な日だ、どうやって祝ってやるのかチラッと見た時に確認した。年に一度の大切な日だ、どうやって祝うのか考えるだけで楽しい、帰りにデパートによってみようかと考えていたときに課長に声をかけられた。   「田上、ちょっと会議室」  課長が手招きをしている、どこの資料を持ってこいとも言われてない。という事は俺への個人的な話という事になる。  会議室に入ると、「まあ、とりあえずは座れ」と言われた。その口調に嫌な予感がする。  「人事の件なんだがな、いや。困ったな」  何が歯切れが悪い、何や嫌な知らせだとは分かったが。何なのだろう。  「社内のTOEICスコアの上位、上から二人ともうちの部署なんだよ」  「はあ?」  「で、どっちか一人を新設予定の海外事業部に回せって言われてな」  まさか……。  「お前と上原なんだけど、お前は出せない。そうなると上原を移動するしかない」  そういう事か、嫌な予感は当たるものだ。  「それで、上原の抱えている顧客、福田に回せるか?」  つまり上原を移動しないという選択肢はここにはないという事だ。  「海外事業部って、社長肝いりの新事業部ですよね。確か社長直轄にするって話でしたよね。来春の立ち上げでは?」  「準備室って事らしい。主に社長の通訳としての仕事がしばらくはメインになるから特に知識が、というのは今回問われていないんだ」  「あいつまだ二年目ですよ、新しい事業部って無理でしょう」  「お前は出せない、それに今回必要とされているのは下準備の通訳だ。そしてフットワークの軽い社員が望ましいということだから上原が適任だろう」  確かにそうかもしれない、けれど他に誰かいないのだろうか。なぜ上原に移動の内示がまわってきたのか理解できなかった。

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