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第215話 蓮
「上原、福田、ちょっと会議室」
どうかしたのだろうか、主任の声が尖っている。もしかすると、主任の機嫌が悪いのかもしれない。何があったのだろう。
「「はい!」」
福田と俺の返事が綺麗に重なった。
「急な話なんだけれど…上原、近々に辞令がおりる。詳細はまだ明かせないのだけれど、これから業務をなるべく福田に引き継いでもらいたい」
え…何を言われているのか理解できない。あまりにも急で、考えたこともない移動で消化できない。もしかして何か俺、やらかしてしまったのか。頭の中でぐるぐると回る。
あと一週間で六月も終わるというのに、夏はすぐそこなのに、それどころじゃなくなってしまった。
「上原、少し残ってくれ。福田、先にデスクに戻ってろ」
俺と主任の事を知っている、福田は「はい、もちろんです」と部屋を後にした。
「上原、すまない」
「主任が謝ることじゃないですよね、でもどこへ行くのか教えてもらえませんか?」
「海外事業部……準備室になるらしいが。正式な辞令はまだ来ていない」
主任と同じところでもう働けないという事だけはわかった。会社員だから仕方ないのだけれど、胸が痛い。
「上原先輩、大丈夫ですか?顔色悪いですよ」
デスクに戻ると、福田が心配そうに声をかけてきた。
「ありがとう、大丈夫だから」
本当は全然大丈夫じゃない。
なぜ、どうして?俺は移動させられなきゃいけないんだろう。
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