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第218話 匠

 誕生日を一緒に過ごせない、別に社会人にはよくあることだとは思うけれど時差の関係で、電話さえできないのだ。あいつが一人になれる時間は日本では就業時間、まさか途中で電話を掛けにでるわけにもいかない。  このプロジェクトは大きな事案になる。新しく支社をカリフォルニア州最南端の街に、そして生産工場をメキシコに。つまりツインプラント方式の支社、工場の操業をスタートさせるためになるからだ。  メキシコのマキラドーラに工場予定地の視察、仮契約のための下準備として出向いている。上原はどれだけ大きな事業に関わる事が出来ているのかわかっているのだろうか。  恋人としてはその成長が誇らしい限りだが、男としては少し悔しいくらいだ。  相反する二つの気持ちが相混ぜになり、時差を言い訳に誕生日おめでとうのメッセージも送らないまま帰国の日を迎えた。  自分からは連絡もしなかったのに、会えないことにいらだっている。せめてメールくらいすればよかったと今更ながら考える。  とりあえず連絡はしていないが、帰りの便の時刻を調べ成田まで出向いた。  社長と同行ではあるが、社長は迎えの車が出ている。上原は電車に一人で1乗る事になっているだろう。社長はアッパークラス、既にゲートをくぐって迎えに来た秘書が荷物を受け取り帰って行ったのを見届けた。  エコノミークラスの上原は、そろそろ出てくるころだろう。  ゲートから出て来た上原を見て声をかけようとしたら、なぜか金髪美人と抱き合っていた。

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