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第219話 蓮

 突然ぐいと体を後ろに引かれた。  んんんっ、主任?何故ここにいるのですか。驚いた俺よりも、もっと驚いた顔をした主任がそこにいた。  「匠さん?」  人前だからさすがに叫ぶ事はなかったが、ふるふると震えてる主任がいた。慌てて主任に紹介する。  「こちらはリズ、俺のホストマザーです」  「えっ?ああ、ホスト…あ、ザックのお母さんですか?」  「初めまして、あなたが噂の匠ね。蓮、うちの息子の方がいい男じゃない?」  主任、顔が引きつってます。  「誕生日に異国で一人っきりってねえ、電話さえよこさない恋人ってどうなのかしら。ザックはちゃんと出張先までプレゼントを届けたわよ」  リズ、その辺にしておいてください。  予定外の連絡が来たのはアメリカについた日の夜だった。ロスに住んでいるザックの母親が息子に頼まれたとサンディエゴのホテルまで会いに来てくれたのだ。  ザックはリズに頼んで綺麗な花束を届けてくれた、そしてリズが息子の代わりにと一緒に祝ってくれたのだ。  そのまま帰りの飛行機の便を俺から聞き出すと一緒について来た「息子に会いに行くのに何か問題あって?」とあっけらかんとしている。  「すみません。あまりにお若くて、つい蓮がその……」  確かにリズは若く見えると思う。実際に若い、まだ三十代だ。ばつの悪そうな主任を見て少しだけ、可笑しくなった。  「誕生日の日に独りぼっちじゃなかったのはリズのおかげですから」と主任に伝えると苦笑いされてしまった。  「納得できないわ。この人やめて、うちの子にしなさいよ、蓮!」  笑いながらリズが言う、けれど冗談ではなく半分本気なんだと思う。リズはザックが日本に来た理由を正しく理解していて、その上で息子を応援している。同じ母親でも考えかたは全く違っている。

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