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第221話 蓮
時差の関係で、日本を出発した当日の朝にサンディエゴについた。それから真っ直ぐ工場予定地に向かい、現地を簡単に見て今回の社長の仕事は終わったようだ。
アメリカまでわざわざ来てゴルフと思うが、社長のメインはそちらだったらしい。現地のコーディネーターに頼んで出かけてしまった。
つまり二日目は、一人で放り出されてしまった。
新しく入る事務所の周りの環境をチェックして、現地の写真を撮る。日本人の目線で安全と利便性を確認すること。
何でもネットで済む時代でも、現地に赴き自ら調べると違っている。その方針はよくわかる、それだったら社長も自ら確認してほしいのだけれど。
今回の旅で不思議なのは、なぜ今回のお供が、俺なのかということ。そればかり考えてしまう。通訳としてだけ選ばれたのなら、二日目以降もゴルフ場で突っ立っていることになるはずが、現地の視察と言う大きな責任が残った。
まだ二年目だと思うと腑に落ちない。
そんな出張の中で、リズが会いに来てくれたのは、アメリカ時間での俺の誕生日の夜だった。リズは高校の時の留学先のホストマザーつまりザックの母親だ。
二人でいろいろな話をした。独立記念日の花火を見ながら留学していた時の事を思い出していた。あの当時はいろいろな夢があった、そして今の俺には何があるんだろう。主任の事ばかりで、今しか見えていない。
今年の誕生日は主任と二人だと喜んでいた。けれど結局こうやって会うことさえできない、日本時間ではすでに五日になっているはず。主任からはメールのひとつさえ来なかった。
考えるのはその事ばかり、どうしてかなと、ぐるぐる頭の中で考えが巡る。
このパターンはかなりまずい。
朝も昼も夜も、二十四時、俺は主任に依存しているみたいだ。
………これって、なんだか重たくないか。
自分がなぜ今回の出張を言い渡されたのか、この先どうしたいのか、考える良いチャンスだったのかもしれない。日本に戻ったら少しずつ自分の足で立つことも覚えなきゃいけないのだろう。
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