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第223話 蓮

 なぜ自分が今回、アメリカへの出張に出されたのかとずっと考えていた。  ああ、もしかしたら……来春アメリカ駐在になるかもしれないんだと気がついた。  現在の部長が現地の支社長になるとは解っていた。そして、その部長から直接指導を受けて、延々と契約書や現地の情報を勉強させられている。多分、先方部隊、兵隊予備軍の一人としてカウントされているんだと知った。最初の立ち上げの時の下働きの社員が必要だろう。  俺は、しばらく主任と離れなきればいけないかもしれないのだと思った途端に会社辞めたいと考える自分がいて驚いた。  これって……男としてはどうなのかな。  確かに主任との生活は楽しいし、好きだという気持ちも日々深くなっていく。  だけれど、もしアメリカ駐在の辞令が出たら俺はどうするんだろう?  主任あの手をとるのは簡単だけれどもその先、一生主任に依存して生きる?それは無理だ。  今俺にすべき事は、一人でも生きていける自信をつける事。その上で主任のパートナーとしての位置をしっかりと作る事。  ですから、出来る限り家事もきちんとやりたいのです。そう説明するとガクンと肩を落とした主任が言った。  「あ……そう……別れ話かと思った。心臓止まりそうだったよ、蓮」  「別れ話って?俺が主任と別れてどうするんですか?」  おかしくなって笑いだしてしまった。  「いや、誕生日に連絡できなかったし。そしたら、お前が荷物片付けてるし、出ていくのかと思った」  顔色変わって、立ち上がる気力さえないみたいに見える。  「匠さん、片付けているイコール出ていくって発想は変ですよ」  それでも、愛されてと分かって、嬉しかった。誕生日に連絡をくれなかった事、許してやってもいいかもしれない。  あれ?やっぱり俺、少しだけは意地悪したくなっていたのかもしれない。

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