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第224話 匠
勝手に別れ話だと思い込み、焦った自分が少し情けない。
「頼まれても別れてあげませんから、覚悟してくださいね。匠さんと一生一緒にいるため荷物にならないよう、並べ立てるように頑張ろうって誓いたかっただけですから」
そう言って微笑む上原、俺は仔犬に振り回されていたのに何故かその成長ににやけてしまう。
「お誕生日おめでとう、言うタイミングをなくしてしまって遅くなった、悪かった」
照れくさそうに上原が笑う、その笑顔で全てが片付いた気がした。
「あの、さっき見つけてしまったのですが、あれはもしかしたら……」
上原がベッドサイドに置いてあるリボンのかかった袋を指差す。
「そう、だけど……。あれは、後にしないか?」
そっちは悪戯で置いた白いエプロンだ、今この状況で開けられるのはちょっと困る。
「どうしてですか?もらう本人がここに居るのに?開けていいですか?」
上原は嬉しそうに包みを開けて、中を見て赤くなった。
「あの、これって……プレゼントですよね?と言うことは匠さんが着るのですか?」
どうしてそう言う発想になる上原、違うだろう。どう考えたって似合うお前と、似合わない俺。
「いや、それもお前の。軽い冗談だから、だから後にしろって言ったのに。これが、俺からのプレゼントだよ」
新しい鞄を渡す、最初にこいつを拾った時に鞄がついてこなかった。失くした鞄の代わりに、就活の時に買ったという鞄を使っていた。だから新しいのを買ってやりたかった。
コードバンの黒とこげ茶の組合せの鞄を渡すと、少し驚いて「綺麗な鞄ですね、けれどこれ高そうです、ありがとうございます匠さん」
俺の胸にコトンと頭をつけてきた。
「蓮、独り立ちはしなくて良いよ。家事は今まで通り俺がやる。たまに手料理食わしてくれるのはありがたいけれど。お前は今は仕事を頑張る時だ、新しい部署で大変なはずだ」
成長しようともがいている上原を強く抱きしめる。あまり焦って成長しようとするな上原。俺を置いて成長していくな。
まだ、俺の腕の中で笑っていてくれ。
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