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第228話 匠

「んーーっ」  疲れているのか、身体が少し重い。  手を伸ばすと、上原はもう起きているようでそこにはいなかった。  「匠さん、目が覚めましたか?朝ごはん簡単に準備しましたからどうぞ」  朝からシャワーを浴びたのか、すっきりした顔の上原が微笑んでいた。昨日の夜は俺の腕の中で果てるようにして眠ったはずなのに、今朝はまるで何事もなかったかのよう笑っている。  朝食のテーブルで、コーヒーを飲みながら小さく上原が呟いた。  「No ifs, just facts……か」  「何?」  「if……もしもなんてない、そこにあるのは事実だけだとリズに言われました」  「事実だけ?」  「そうです、俺が男だと言う事実。匠さんを愛していると言う事実。たとえ将来に何もないとしてもその手を離せないだろうと言う事実。だからもしも……なんて考えは捨てなさいと言われて」 「俺にとって蓮は真実以外の何物でもなかったし、この先もそうだ。あー、しかしあの親子には一生勝てない気がしてきたよ」  そう言うと上原は笑いながら「ザックがあなたを愛しているというのも事実よね」とも言われましたよと、付け加えた。  冗談じゃない。あまり蓮にザックを意識させないでほしい。  カップを片付けようと立ち上がった上原をぐいと引くと膝の上に乗せて抱きしめる。  「俺がお前を誰より愛しているという事実だけは絶対に忘れるなよ」  髪から少しずつ下るように耳の後ろ首へと口づけを落としていく。肩に軽く口づけた時に「はい、もうストップです!会社に遅れてしまうから、早くシャワーを浴びてきてください」と軽くあしらわれた。  ああ最早、上原にも負けてるのかもしれない。

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