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第230話 匠
突然、坂下さんから内線が入った。上原のことについて教えて欲しいと。近々に結婚の話とか無いか?と、問われ苦笑する。
「いえ、私は聞いておりませんが。何かございましたか?」
そう聞いても「うん」としか答えてくれない。余計な事は決して言わないのだ。この人から話を聞きだすのは無理だ。蓮には今日の夜、直接聞いた方が早いと、思ってしまう。
けれども疑問が残る、まだ入社二年目と言う若さで、なぜ今回経験もない海外事業部へ引かれたのか理解できないのだ。
そもそも営業畑のあいつが、新規プラントの立ち上げに関わるのも変だと思っている。英語が話せるから?そんな社員はなん十人もいるはずだ。
「坂下さん、少しだけ時間いただけますか?」
ただ一つだけ引っかかる事があることはある。まさかとは思うが、どうしても確認したい。ここが切り崩せる自信は無いが他に手は無い。
「お忙しいところありがとうございます。今回の海外事業部に移動する社員の人選なんですが、どなたが?」
「知らん」
「では、質問を変えさせていだだきます。水野専務は今回の事業部の人事権握ってらっしゃいますよね?」
「知らん」
うーん、難しい。答えを得ることはできないのだろうか。絶対にここが鍵だと思っていたのだが。
「そうですか、失礼しました。では、この辺で。ところで、水野専務のお嬢さんご存知ですか?綺麗な方ですよね。」
坂下係長のこめかみが、ぴくっと動いた。
ああ、やっぱり……そうだったのか。
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