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第231話 蓮

 「蓮、お前さ水野って名前に覚えがないか?」  「えっ?匠さん、えっと……なぜその名前を」  「お前、お見合いの件はきちんと断ったんだよな」  「もちろん、断りましたけれど。なぜ今頃その名前を?」  確かに縁談話があったのは、兄さんの秘書の水野と言う名の女性だった。  「勇さんに連絡をもらって、気になって少し調べて見たんだけれど」  兄さん、俺に先に電話してよ。なぜ直接主任い連絡するんだよと思う。主任の話を聞いによると、今回の海外事業部の人事を一任されたのは水野専務だという。  「水野専務って……まさか?」  ただ同じ苗字なだけだと思いたい、会社の人事を自分の都合のいいように動かす人がいるはずはないと思う。しかし、今回の人事では水野専務が、自分の手元に自分で選んだ社員を置いて精鋭部隊を来るよう指示が社長から出たと言う。そして専務自らが人事を行ったと言うのだ。その中に何故か俺がいたらしい。  「既に会社の決定事項になっているから今更人事は覆らない。ただ、坂下さんも今回の人事で蓮の移動だけは意外だったようで調べたらしいな」  「どうしてこんなことになるのでしょうか?何も分からずに、アメリカまで何をしに行けばいいのか。お茶汲み係として、サンディエゴに駐在になりますよ。そんなの笑えません」  何となく想像がついた。もともとこの会社への就職を勧めてきたのは父さんだ。断ったはずの話が勝手に動き出してしまっているのかもしれないとため息が出た。

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