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第232話 匠
上原のお兄さんから「秘書をやっていた水野と言う女性が花嫁修行で会社を退社した。弟以外との縁談話は無かったはずだが、何か気になる事は無いか?」と電話があった。
「父親が雇った秘書でね、詳しいことはあまりしらないんだ。申し訳ない」そう連絡をもらい、少なくとも味方になってくれていると嬉しかった。
気になる点と言われれば、今回の人事以外には無かった。海外事業部の編成に関して、調べていたところ水野専務にたどり着いた。
まあ、上原のご両親にしてみれば認めはいない息子の男の恋人とは別れて縁のあるお嬢さんとくっついて欲しいというのが本音だろう。
坂下係長ははっきりとは言わないが、何かあると気が付いている。本人と話をした後、疑問は確信に変わった。けれど切り崩せない、あの人は取り付く島がない。
「匠さん、仕事で海外へ行かされるのは仕方ないと思えるのですが、個人的な理由で異動させられるのは納得できません」
上原はそういうが、正直俺の方が納得できるわけがない。恋人を勝手に連れ去られるのだから。
専務は上原を手元に置いてどうするつもりだろう。ただ、出世の早道を将来の婿のために用意したというところだろうか。
「坂下さんは専務に既に何か言われているのか、それとも知ってしまった事実を隠しているのかどっちかだな。そういう意味では力になってもらえるかもしれないが」
上原が小声で「直談判かなあ」とつぶやいた。また爆弾を落とさなきゃ良いけれどと思うが、こいつは時々想定外の行動に出る。まあ今回は止めなくてもいいかと思ってしまう俺がいた。
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