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第233話 蓮

 「ただいま帰りました」  ドアを開けると、主任が心配した顔をしてリビングに居た。今日は会社からまっすぐ実家に帰り、ひと騒ぎしてきたのだ。  後日、先方とは話し合うという約束を取り付け、今回は帰ってきた。  「おかえり、蓮」  声をかけられて、ドアからまっすぐ主任の腕の中へと飛び込んだ。  どう考えてもここにしか俺の居場所はない。主任の胸に頭を強く押し付けると、主任が笑い出した。  「蓮、おまえは本当に犬みたいだな」  そう言いながら、両手で顔を包み込まれて目を覗き込まれた。  「そうか、うん。大丈夫なんだな」  頭をいつものようにぐしゃっと、撫でられた。そして額に軽く口づけられた。  「どうなるかはまだ分からないのですが、会社を辞めてでも匠さんのそばに居たいと思っています」  「じゃあ、嫁にもらうか?」  主任は笑いながらしっかりと抱きしめてくれた。  実際に嫁になんて事はあり得ないし、会社を辞める事も出来ない。主任もその事は十分承知していることだろうけれど、なぜだか少しだけほっとした。  腕を主任の首に回して、丁寧に口づける。  「ただいま、匠さん帰ってきました」  ここが俺の戻る場所、他はない、たとえ何があろうとも。重ねて言った「ただいま」の本当の意味を主任は分かってくれたのだろうか。

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