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第236話 匠

 結局、煽っていたはずが、上原に煽られている自分に可笑しくなる。こいつの全てがどうしようもなく愛しい。  後ろからしっかりと抱きしめて耳を甘く噛んだ。  「んふっ」  くすぐったそうに首をきゅっとすくめた。ゆっくりと身体をまわしてこちらへ向くと、身体をぴたりと合わせてきた。  「匠さん、今度は洗わせてくださいね」  俺の手から浴用タオルを取り上げると、にこりと笑った。その姿は泡だらけで、まるで巻き毛の長い犬のようだ。  全く同じようにやり返され、悪戯されてこちらが我慢できなくなる。別に根くらべをしていたわけではないけれど。  泡だらけのまま、二人して湯舟に入る。いくら広め湯船とは言え、大の男2人が入るには狭い。ほぼ重なるようにして入ることになる。  「くすぐったいですから」  くすくすと笑いながら、湯の中で上原が子供のようにふざける。全く、大人なのか子供なのかわからない。  そんな上原に振り回されてる俺が情けない。  そういえば、以前風呂でのぼせさせた事あったなと思い出して「あがるぞ」と湯から引き揚げた。  シャワーで身体を流してやると、残念そうな顔をする。ああ、こいつはまだまだ子どもだなと思う。  それなのに、その子供に問いかける。  「蓮、ベッド行こうか?それとも少し飲みたいか?」  「ここでも、良いですけれど?」  つつっと、指先で喉元から胸までをたどられた。  たった今、子供だと思った上原に誘われて、俺がのぼせそうになった。

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