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第237話 蓮
眠るのはいつも主任の腕の中。ここより他には俺の居場所はない。浴室から真っ直ぐに寝室へ、そのままじゃれ合うようにベッドで戯れて重なって眠る。
朝起きてぐしゃぐしゃの髪を見て、髪も乾かさずにそのままセックスになだれ込んだことを思い出し二人して笑った。
ただ、肝心の問題は片付いていない。自分の父親にも嫌な思いをしてもらわなくてはならない事に、少し胸が痛んだ。どう話が進むのか、何が正解なのか全く見えず、俺の仕事は相変わらずだ。断ったはずだと何度も父親に電話を入れ、解決の糸口さえ見えず苛つき始めた頃、兄さんから電話があった。
そこで呼び出されて、出かけたレストランで意外な展開になった。
「お久しぶりです」
そこにいたのは水野さん本人だった。
「あの……兄は?」
「今日は二人だけでお話がしたくてご遠慮頂きました。蓮さんには好きな方がいらっしゃると伺いました」
「ええ、家族になろうと誓った人がいます。本当にすみません。そもそも、自分が婚約している事さえ、私自身知らなかったのですから」
「ごめんなさい」
いきなり謝られて驚く、別に彼女が何か悪いことをしたわけではないはずなのに。俺が謝られると言うより謝る立場のはずなのに。
「あなたを利用して、あの家から出ようとしていました。一日も早く、自由になりたくて。本当にごめんなさい。嫌な思いをさせてしまって、どうせ蓮さんも結婚など出世の一端と考えていらっしゃるだろうからと。だったら利用させていただこうかと」
どうにかして家から自由になる方法を探していた。そこに縁談の話。これを利用すれば自由になれると考えたという。アメリカへの出向の件も彼女から父親への入れ知恵だったらしい。アメリアまで出てしまえば、後はどうにでもなると思ったと言う。
専務としては、娘が渋っていた縁談に乗り気になってくれたことに気をよくして通訳として俺を抜擢することにしたらしい。
パーティで会ったのは偶然ではなくて、一応顔を拝みに来たという事ろだろうか。
何だか……拍子抜けだった。
いろんな人を傷つけたのかと心配してた。兄がきっと働きかけてくれたのだとは思う。父もそう強く水野専務に出れるはずはないのだから。
「あのパーティでお会いして、この人なら良いかと、軽く考えていた事を本当に申し訳なく思っています。父には本当の事を話しました」
取り敢えず縁談は消えたらしい、実家には既に謝罪を入れてあると言う。水野さんはまず独り暮らしを始めるという事で話が付いたらしい。これでやっと大きな問題は解決したはずだ。
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