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第242話 匠
後ろから抱え込むようにして抱きしめて、上原の身体を少しずつ拓いていく。
上原は目を閉じて快感だけを追いかけている。軽く閉じた口から息が漏れ、より深く奥へと俺を誘い込んでいく。
「蓮、どこにもやらない。手放すことはもうできないんだ」
声をかけながら、肩甲骨の内側に軽く口づけると、上原の内側がきゅっと締まる。崩れ落ちそうな身体を強く抱きとめる。
「匠さんのところ以外どこへも行けません」
そう言われて、心も身体も満たされる。あっという間に連れて行かれる、そう思った。強く抱きしめて自分の熱をその愛しい人の身体の中にはきだした。
「匠さん、汗を流すだけのはずでしたよね、なのに……もう」
上原が少し赤くなりながら、バスタブの縁に顎を乗せて、髪を洗っている俺に文句を言っている。
何を言っているんだ、誘ったのはどっちだと可笑しくなり、声に出さずに小さく笑う。
「え、匠さん?笑ってます?」
あ、ばれたな。肩が揺れていたかな。
「ん?蓮の様子が可愛いなあと思ってさ」
「見えてないでしょう、全く何を言っているのですか」
見なくても表情のひとつひとつまで分かる。そのくらい上原は俺の中に染み付いている。
「いつでも、どこでもお前だけは見えてるよ。よし、終わった。今度は蓮の番だから、俺が洗ってあげようか?」
「え⁉︎……自分で、できますから……」
上原の声が急に小さくなった。下を向いた上原を湯船から引き上げるとバスチェアーに座らせた。
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