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第244話 匠
『今日は帰りが遅くなります、食事を済ませてから戻ります』と上原からメールが入った。
『解った、気をつけて』と、返信しておいた。
上原が新しい部署に移動してから、俺の帰宅時間と上原の帰宅時間がほぼ同じになった。二人で帰ってから並んでキッチンに立つ事も増えてきたので、一人だと少し寂しい。
飯、どうするかなと悩んでいたら、うろうろと歩き回る影が目にはいった、福田だ。
「ん?福田、帰らないのか?どうした?」
「主任、あの。個人的な事なのですがご相談があるのですが。少しお時間いただけませんか?」
困ったような表情をしている、何かあったのか。
「あの、こんな事相談できる人、他に誰もいなくて。今度、恋人の、いえ今付き合っている人のご両親に改めて会う事になって。そのっ、昔から友達で今更なんですけれど……」
付き合っている人、横山のことだ。
「何だ?結婚でも申し込みに行くのか?」
つい揶揄いたくなりふざけた物言いをした。
「………」
「ええっ?本当に?」
「いえ、あの実はあいつと一緒に暮らしたいと思ってまして、話を少し聞かせていただきたいので、時間をいただければと思ったのですが」
「そうか、もうお前は出られるのか?今日は一人で外食の予定だったからな、一緒に飯でも食おうか」
たまには部下の惚気話でも聞いてやるかと立ち上がった。
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