244 / 336

第244話 匠

 『今日は帰りが遅くなります、食事を済ませてから戻ります』と上原からメールが入った。  『解った、気をつけて』と、返信しておいた。  上原が新しい部署に移動してから、俺の帰宅時間と上原の帰宅時間がほぼ同じになった。二人で帰ってから並んでキッチンに立つ事も増えてきたので、一人だと少し寂しい。  飯、どうするかなと悩んでいたら、うろうろと歩き回る影が目にはいった、福田だ。  「ん?福田、帰らないのか?どうした?」  「主任、あの。個人的な事なのですがご相談があるのですが。少しお時間いただけませんか?」  困ったような表情をしている、何かあったのか。  「あの、こんな事相談できる人、他に誰もいなくて。今度、恋人の、いえ今付き合っている人のご両親に改めて会う事になって。そのっ、昔から友達で今更なんですけれど……」  付き合っている人、横山のことだ。  「何だ?結婚でも申し込みに行くのか?」  つい揶揄いたくなりふざけた物言いをした。  「………」  「ええっ?本当に?」  「いえ、あの実はあいつと一緒に暮らしたいと思ってまして、話を少し聞かせていただきたいので、時間をいただければと思ったのですが」  「そうか、もうお前は出られるのか?今日は一人で外食の予定だったからな、一緒に飯でも食おうか」  たまには部下の惚気話でも聞いてやるかと立ち上がった。

ともだちにシェアしよう!