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第245話 蓮
「係長、私も海外に出される可能性があるのでしょうか?」
「ああ」
二人会い向かいで座った定食屋で、話を切り出した。
「係長はどうお考えでしょうか?私が行く意味があるのかと、不思議で仕方ないのですが」
「田上」
いきなり主任の名前を出されて心臓が跳ねた。え、主任がどうしたと言うのだろう。
「同じ事を言っていたよ」
ああ、そ、そうか。驚いた。ほっと胸を撫でおろしたところに爆弾が落ちた。
「付き合ってるの?」
ええっ?な、何で。どこかで見られていたのだろうか。
「同じ高校だった、田上は俺のことを知らないと思うが。あいつが男と付き合っているのは、高校では有名だった」
まるで普通の事のように話をする坂下係長。これは言って良いのか?判断がつかない。
「田上が他人の事で必死になるのは初めて見たな」
「はい」
それ以外何も言えない。
「別に責めてない。仕事以外は干渉しない。会社が無料で勉強させてくれるチャンスと俺は思うが、何を優先するかは、お前次第だ」
そう言われても、俺の中で優先順位をつけるとしたら、やっぱり通り主任が一番になる。
「転属願いを出したいと思っています」
そう伝えると坂下係長は、ただ微笑んだ。
「その判断も、上原、お前次第だ」
その後は二人で、仕事の話をしながら軽く食事をした。帰り際に「負けるな」それだけいわれた。
何に対して負けるなと言われたのだろう。世間の目、会社での人事、そして新しい部署への転属願い、今後の仕事、ああその全てか。
俺の周りには、見習うべき大人がたくさんいて、道を教えてくれるんだと、ありがたく思いながら家路に着いた。
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