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第246話 匠
もともと二人で住みたいと言い出したのは横山の方だという。今でも半同棲のような生活を送っているのだから、引っ越しても何の問題もないと言ったらしい。
その横山を福田が叱りつけたらしい。
いい加減な気持ちじゃないからこそ、きちんと互いの両親に話をしたいと言う福田と、親は関係ないという横山とで結局は喧嘩になってしまったらしい。
「でぇすよねぇ……しゅにん、ならぁ、解ってくれまふよね」
絡まれている俺としてはそろそろ解放して欲しい。しかし、福田がこんなに酒に弱いとは知らなかった。
「お前、ちょっと携帯と指貸せ」
福田の携帯を指紋認証で開くと、履歴から横山に電話をした。
「すぐに引き取りに行きます」と、電話の向こうで慌てた声がした。十分もしないで、ティシャツにジーンズ姿の横山が到着した。
「田上主任、すみませんでした。こいつ本当に酒弱くて」
「立て、大丈夫か?」と福田を引きずるようにして出て行く横山に声をかける。
「お前、福田の気持ちも解ってやれよ。大切だからこそ、きちんとした形をとりたいんだろう」
「解ってはいるんですけどね。今更、どの面下げてって言うか。恥ずかしすぎて、無理って言うか」
確かに横山の言い分も解る。
「けれど先延ばしにすると、いよいよ言えなくなるぞ」
「ですよね、俺も解ってはいるんです。ありがとうございました」そう言って頭を下げると横山は福田を抱き抱えるようにして出て行った。
外から「馬鹿野郎、俺以外の男と飲むなって言ったろ」と聞こえてきた。痴話喧嘩に思わず苦笑いする。
さて、俺も上原の元に帰るかと立ち上がった。そう言えば、俺の恋人はどこの誰と何をしているのだろうかと、ふと不安になった。
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