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第248話 匠
迎えに来てみれば、色気だだ漏れの恋人が俺を見つめて立っている。ヤバいこの顔。そう思ったらボソッと小さい声で、「抱きつきたい気分」と言われた。
迎えに来て良かった。危なくて放っておけない、本当に俺の仔犬は「待て」ができない。電車には乗れないなとタクシーを止めると、驚いた顔の上原の手を引いて乗り込む。
後部シートで手を絡めると、「んっ…ふぅ」と、上原が艶っぽい声をだす。ミラー越しに驚いた顔の運転手と一瞬目が合った。苦笑いでやり過ごすと、ぎゅっと上原の手を握りしめた。
マンションの扉を開けるか、開けないかのタイミングで上原が首に巻きついて来た。速攻ベッドに連れ込んだ方が良い。明日は通常業務だと、冷静な自分が警鐘を鳴らす。
それでもドアをロックすると靴を蹴るようにして脱ぐ。革靴がドアにぶつかってガコンと音をたてた。
鞄は玄関に蹴り落とし、そのままネクタイを解きながら、寝室へと向かう。上原のシャツのボタンをふたつ外した時、上原が目で俺の手を追いかけていることに気が付いた。
「どうした?蓮?」
「匠さん、器用だなあと思って感心してました」
何でこいつが今、余裕があるのかわからないが、まあいいだろう。すぐに余計な事は考えられないようにしてやるから。
両手で頭を挟み込むようにして耳を覆い口づける。こうしてやると感度が上がる。
舌で上顎を舐めてやると、上原は体を小さく震わせて、苦しそうな顔になる。感じているのが分かるのは嬉しい、「っはぁ…あぁ」と、呼吸に合わせて声が漏れる。
角度を変えてもう一度、舌を差し込むと吸い付くように、自分の舌を絡めてくる。
そして俺の背中に回っていたはずの手がいつの間にか俺のベルトを外そうと動いている。
「蓮、お前の自由にさせてたら、最後に行く前に終わってしまうよ」
「んっ、でも。匠さんに触りたいんです」
もう、明日は車で会社まで連れて行けば良い、後のことまで考える余裕は完全になくなってしまった。
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