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第253話 蓮
元いた部署に戻してもらえる可能性は低いとは思っていたけれど、少しは期待していた。だからと言って、足踏みしてても仕方ない。前進しなくちゃいけない。
提出した「転属願い」はなぜかするすると上まで行き着き、何がどうなったのかいきなりの転属辞令。
来月からという突然の辞令で、たった1ヶ月で海外事業部を外れる事になった。
辞令には生産管理部門への移動と記されていた。確かにそこから人が移動になるから補填と言うのも解らなくもないが、営業だって人は減っている。でも、さすがに元には戻せないと言うところだろう。
自分が生産現場の事を良く知らないという事実が今回わかった。一から勉強しよう、そのチャンスをもらったんだ。そう思うと新しい部署も楽しいかもしれない。
「匠さん、生産管理部に移動になる事になりました」
昨日、そう伝えると、ベッドの中で人の髪で遊んでいた主任が「んー」と返事とも何ともつかない声を出した。
「蓮、本当はアメリカへ行きたかったか?」
「そうですね、仕事として面白い事にチャレンジしたいと言う気持ちはありますが、右も左もわからない場所で仕事するのは嫌かもしれません。もう少し勉強したいですね」
「じゃあ万が一、蓮が駐在になったら俺が付いて行って養ってもらうか。少なくともお前よりは家事ができるしな」
そう言って主任は声を立てて笑った。俺もつられて笑った。何でもない こんな事が幸せに思えるって素敵な事だと思いながら主任の心音にあやされて眠りについた。
新しい上司や仲間はどんな人たちだろうと、初日は少し緊張しながら会社へと向かった。
その新しい部署にまさか主任の天敵がいるとは、この時は夢にも思わなかった。そして、また俺の行動が嵐を呼ぶ事になるという事も。
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