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第255話 蓮

 海外事業部では幾つかの英文の資料の翻訳や、書類の作成くらいしかする事が出来なかった。  もっと仕事らしい仕事がしたいと思っていた。  新しい部署には新入社員のつもりで、一から覚えなくてはならないだろう。そう思いながら期待に胸を膨らませて出社した。  「おはようございます、今日からよろしくお願いします。上原蓮と申します」  「江口、上原の事は頼むな」  課長にそう言われた江口さんは、にっこりと笑うとよろしくねと声をかけてくれた。この人、とても良い人だなと思った。主任はあまり江口さんのことを語らなかったけれど。  「上原君は営業で田上についていたんだよね?あいつは仕事出来るだろう。いろいろと、教えて欲しいな」  主任を褒めらて嬉しくなる。  「はいっ、よろしくお願いします」  「これが生産管理表。ログインパスワードは社員番号になってるから、誰がどの表にアクセスしたかわかるようになってるよ」  緊張する。この部署の仕事はよくわからなくても、入社二年目だから新人扱いはしてもらえない。  自分の仕事に責任持たなきゃいけない。  「こっちが不良品のライン別の記録ね。あ、一度に全部だと分かりづらいかな。ま、何度でも聞いて」  江口さんはニコニコ笑いながら丁寧に説明してくれる。本当に優しい。  「ありがとうございます」  頭を下げると、クスッと笑われた。  「何だか、勢いあって可愛いね」  そう言われて恥ずかしくなった。主任に「いつも勢い良すぎるんだよお前は」と言われていたと思い出した。

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