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第257話 蓮
毎日新しく覚えることばかりで、あっと言う間に時間が過ぎる。
金曜日、工場から上がってきたデータを入力する作業に集中していたらポンと軽く肩を叩かれた。
不意を突かれて、過剰にぴくりと反応してしまった。
「あー、ごめんな。驚かせたかな?声かけたけど聞こえなかったようだからさ」
笑顔の江口さんを見て恥ずかしくなる。
「いいえ。すみません、気がつかなくて」
「もう、終業時間だよ。どのくらいかかりそう?」
「あとは、入力した数字のチェックをして終わりです」
「そう?じゃあ、今日はこの後、俺に夜付き合ってもらおうかな」
「えっ、今日……ですか?」
「何?デートでもある?それとも俺と食事に行くのが嫌かな?冗談、冗談だよ。そんな困った顔しないでいいよ」
仕事上の付き合いは仕方ないよね。主任だってそんな事くらいわかってくれるはず。
「食事ですよね、ぜひお供させて頂きます」
「いいのか?それなら、終わったら声かけて」
嬉しそうに言われて、こういった付き合いも仕事上では大切だと思う。主任に連絡しなくてはいけないと思うのに、携帯が出せない。なぜなら、さっきからじっと江口さんがこっちを見ている。気になるほど、あからさまにこちらを見ている。
俺……仕事が遅いのかな?そんなことを考えながら、数字をもう一度頭から見直した。
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