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第260話 匠

 上原に「今日は何時に帰ってくるのか?」と、メッセージを送った。そのメールに返信が来たのは一時間後だった。  仕事の後、江口と二人で飲んでると言う。他の男と二人でって……「何を考えてるんだ」と返信する。  すぐに電話がかかってきた。  『匠さん?連絡遅くなってすみません。仕事でお世話になていますし、無下に断ることもできませんでしたから。大丈夫です、何もありませんから』  何かあってたまるか。わかってはいるが、なぜ二人きりなんだと腹が立つ。だんだん落ち着かなくなり苛々してしまう。  「今どこだ?」  『あの、会社の近くの居酒屋です』  「迎えに行く」  『でも、帰りの時間も解りませんし』  「パーキングで待ってるからいい、店を出たら連絡しろ」  飲まなくて良かった、財布と鍵を掴んでマンションを出る。  居酒屋はコインパーキングの二軒隣にある。店を出てきたらすぐに捕まえる、そう思って車のエンジンをかけた。  この時の俺の軽率な行動が、全ての始まりだったとは夢にも思わなかった。

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