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第261話 蓮
「上原?大丈夫か?」
江口さんが声をかけてきた。俺が席を外した時間が、長くなってしまったのだと慌てて答える。
「すみません。大丈夫です、今日外に出ると伝えていなかったので電話を」
「ああ、上原は実家住まいだっけ?」
「えっ⁉︎あっ、ええ」
「ん?おや?聞いちゃまずかったか?お前って何でもすぐに表情に出るのな、可愛いよな」
可愛いって……男性につける形容詞だったでしょうか。主任といい江口さんといい、この年代の人の間ではそうらしい。
「彼女のところか?」
いいえ、あなたもご存知の田上主任ですとは言えず、笑って誤魔化す。
「江口さんは?彼女さんとか?良いんですか?今日金曜日ですよ」
「あー、俺は相手はいつも不特定多数だから。結婚するまでは縛られたくないんだよね。色恋で出来ちゃいました、結婚しますとか嫌だしね。俺、意外と打算的なのよ」
けらけらと笑う、この人正直なのだなと思う。
「江口さん、本当に打算的な人はそんな事言いませんって。田上主任も江口さんも仕事の出来る人は違いますね」
「へえ、俺って田上と同じなんだ」
少し表情に曇りがあったように見えたのは俺の気のせいだろう。
「彼女、待たせてるんなら悪い事したな。そろそろ帰るか。今日は俺の奢りで。この次、社食でも奢ってくれ」
あれ?これっていつか言われた台詞に似ている。
たった今電話したし、主任はまだ運転中かな。パーキングの所で待てば良いか。そう思いながら店を出た。
「俺はもう一軒寄って行くから、また月曜日な」
そう言って江口さんは帰って行った。江口さんの後ろ姿を見送るとパーキングまで歩いて向かった。
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