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第262話 匠

 上原からメッセージが届いた。  「もう江口さんはお帰りになりました、パーキングの所で待ってますね」そのメッセージを見てなぜかホッとした。  江口が女癖が悪いのは知っている。そして、かなりの女好きだ。だから、まさかあいつが上原を手篭めにするはずもないが、心配なものは心配なのだ。  パーキングのところに上原の姿を見つけた。  「蓮、おかえり。今日は俺との約束があるだろう?酔ってないよな」  サイドウィンドウを開けて声をかける。  上原が赤くなって下を向く。こんな可愛い顔は他の誰にも見せたくない。助手席のドアを開けて上原が乗り込んできた。  俺はその時、上原しか見ていなかった。  普段は用心深い性格なのだか、上原の事になると少しバランスを崩してしまう。  まさか忘れ物をした江口が居酒屋に丁度戻って来るとは考えもしなかった。江口はまだ上原がいたと思い声をかけようとして、車に乗り込む姿を見たのだ。  車内灯に照らされた上原とそして俺自身の姿を見られていたとは夢にも思わなかった。普段から尻尾を捕まえようとしていた同僚の隠していた一面を見つけて、本人はご満悦だっただろう。  俺はと言えば、ずっとお預けだった恋人を腕の中に囲い込む事に必死で、周りの事など見ていなかったのだ。

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