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第263話 蓮
部屋に着くや否や浴室へと押し込まれた。
ああ主任の危ないスイッチを押したかもしれないと頭の隅で考えつつも、何とか一週間乗り切ってきた自分も褒めてやりたいとも思う。だから素直に流される事にした。
シャワーと一緒に流れる様に肌を滑る手が気持ちいい。
「匠さん、気持ちいいです」
じっと見つめられ、その視線に歓喜する。肌をすべり流れる暖かいお湯が、さわさわとくすぐっている。
素直に与えられる感覚に酔って目を閉じて感覚を追いかけていたら、キュッと音がしてシャワーが止まった。
目を開けると、主任がいたずらっ子の様な視線をよこした。
「え、匠さん?」
「お前が一人であまりにも気持ち良さそうだからさ、少し意地悪がしたくなったよ」
何かの拍子に、押してはいけないスイッチに触れてしまったのかと気が付いた。
にやりと笑うと主任はバスローブを羽織って浴室から外へと出てしまった。
「はい、こっちへおいで蓮」
俺は軽く体をバスタオルで拭かれると裸のまま寝室へと連れて行かれた。
主任はベッドボードを背にして脚を投げ出して座ると、俺のことを見て楽しそうに笑った。
「構ってくれなかったから、その分今から頑張れよ」
これって……分かっている。絶対、俺が困るのを見ていたいだけだ。
「意地が悪いですね」
「そう?蓮の好きに構ってくれてかまわないよ、どうぞ」
今日はきっとしつこくなりそうだなと、諦める事にした。
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