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第266話 匠

 大人気ないって、そりゃそうだろう。妬くなと言うのが無理な話だ。この一週間、最優先にしてもらいたいのに上原のことを思って我慢していた。それなのに最後に江口と二人で飲みに行ったのだから、腹が立つのも当然だろう。  上原は自分が酒に酔って見上げる表情が、どれだけ誘っているのか知らないのだろうか。  困った顔の上原を愛でて、満足する。手を伸ばせば、上原はすぐに溶けていく。俺と同じ温度で求めてくれていると考えるだけでぞくぞくとしてくる。  「匠さん、あの上じゃなきゃ駄目でしょうか?」  甘えたような声を出されて、好きにさせていたら俺が持たないとは知っている。それでも今日は譲れない感じている上原を下から見上げるという誘惑に勝てず笑顔で「そうだね」と促した。  「意地悪ですよね、本当に匠さんって」  「蓮、それは違うな。お前を愛してるだけでしょう。お前の全てを見ていたいと思うのもそうだよ」  そう告げると、小さく頷き素直に俺の言う通りに、自分からゆっくりと俺自身をその体の中にのみ込んで行った。  「蓮、愛してるよ、お前以外必要なものはなにもないんだ」  その言葉に上原の身体がぴくりと震えた、見上げると今にも泣きそうな顔がそこにあった。  お互いに思いの温度が同じで、互いが互いを必要としている。    ただただ幸せで、目が眩みそうだった。

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