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第269話 蓮
江口さん、本当に面倒見が良くて、いい人なんだけれど。
少しボディタッチが多いような気がする。考えすぎなのかな。質問をするとパソコンの画面をのぞき込むときに、書類を見る時に横に立って肩に手をかける。主任だってこの距離には会社では立たない。それに後ろを通る時にさわっと手が身体に触れることがある。
驚いて振り返ると満面の笑み。うーん余計な事を主任に言うべきではないよねとは思う。そう考えていたら江口さんがやってきた。
「上原、来週の出張なんだけど、俺に同行出来る?」
どうして真横から囁く様にして話しかけられるのだろう。耳に息が当たると背筋にそってぞくぞくとした感覚が走るというのに。
「はい、もちろんです。どちらへでしょうか?」
良かった、いつもと同じように返事が出来た。
「今管理している生産ライン。お前も見ておいた方が良いだろうと思ってな。岐阜だから朝一で行く形になるな。帰りは少し遅くなるかもしれない。だからその日は空けておいてくれ、恋人とのデートは無しだな」
冗談交じりで、笑いながら言われた。
主任に愛されるようになってから、身体が変化しているのは分かっている。軽い刺激に過剰に反応してしまう。だから、耳の横で話されるとまずい。話しが終わって良かった。
主任と出かける予定はないけれど、出張の事は伝えておかなきゃいけないな。日帰りだし問題ないはず、あれ?俺は何を気にしてるだろう?江口さんは主任とは違うんだ。
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