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第271話 蓮

 「初めまして、ライン管理の鈴木と申します」  「生産管理の上原です、今日はよろしくお願いいたします」  少し小太りの人の良さそうな鈴木さんと言う男性を工場長から紹介された。名刺交換をして、ヘルメットを持って鈴木さんに連れられて会議室を出る。現場を実際に見るのはこれが初めてだ、工場見学の子供のような気持になる。機械は見ていて飽きない、なぜだろうわくわくする。  「上原、工場を案内してもらうように鈴木さんにお願いしておいたから、現場を実際に見て体感してこい。俺は少し打ち合わせがある。後で合流するよ」  江口さんと一緒じゃないと何故か少しだけほっとした。  「上原さんはこちらへは初めてですか?」  「ええ、少しワクワクしています。あ、仕事でワクワクなんて変ですよね」  「いえ、私は工場しか知らないのでそう言われて新鮮ですよ」  とても話しやすい感じの良い人だった。大まかなラインの流れと工程管理を簡潔に説明してくれる。長すぎないが、必要十分な情報量だ、頭の良い人だなと、感心しながら一緒に歩いた。  こうやって現場の人と実際会うとデータという数字だけの付き合いから、人と人との付き合いに変わる。今日は連れて来てもらって本当に良かった。  鈴木さんと別れ会議室に戻ると、江口さんが一人で腕組みをして壁を睨んで待っていた。  「打ち合わせは終了しましたか?」  そう聞くと、江口さんは少し困った顔をした。  「それが、ちょっと問題発生でね。組み替えた新しい生産ラインの確認が今日のメインの仕事だったんだが、配電盤の問題で確認てできるのが調整の終わる明日の午前中になったんだが」  「え?どう言うことでしょうか?」  「いや、日帰りの予定だったんだが、帰るのは明日の午後になるな」  「それは、私もご一緒した方がよろしいのでしょうか」  「帰られても困るな。上原に見せなきゃいけないのは今後の管理を任せる新しいラインだからな。何?大事な用でもある?」  「いいえ、大丈夫です」  とりあえずトイレで主任にメールだけを送る。きっと戻ったら文句を言われるなとため息が出た。

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