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第272話 匠
十時って、どういうことだ。もういくら何でもホテルの自分の部屋に戻っているだろう。電話しても良いはずだ。
上原の番号を呼び出す、数回コールしても上原は出ない。何度かのコールの後、留守番電話に切り替わった。
三十分してもう一度かけた。誰も出ない、つかない連絡に不安になる。最後にもう一度かけてみる。つっとコール音が途切れて電話が繋がった。
『田上さんですか?』
出たのは上原じゃなかった。
「江口……さん。なぜ、この電話に」
『いや何度も鳴ってるので緊急かなと。上原君なら、ここで寝ていますよ。何か急用ですか?ああ、元部下でしたね。何かお約束でしたか?』
「いや、れ……上原を起こしてもらえませんか。急ぎの話があります」
『ふっ、彼に急用ねえ、でも無理な様ですよ。もう何をしても起きません、さっき窮屈そうな服を脱がせてあげたのですが、びくりともしませんでしたから』
あ?服を脱がせた?どう言うことだ、何処にいるんだ。
「江口お前、上原に何をする気だ」
『何をって?』
笑い声が聞こえた。今日は日帰りだったはず。何処にいるのかさえ検討がつかない。
「上原に何かあったら、お前を許さない」
『なあ、この子綺麗な肌してるね。こいつなら俺もいけそうだわ。そう言うことだよな、田上』
ぷつりと電話が切れた、そしてそのまま上原の携帯の電源が落とされた。
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