273 / 336

第273話 蓮

 「ビジネスホテルをって頼んだんだが、工場長が気を回してくれてさ。まあ、予定外の仕事のご褒美もらったと思って楽しめ」  何故か日本旅館に江口さんと二人で泊まる事になった。  ぎりぎりまで工場で自分に出来るサポートをしようと、残っていたので主任にも未だ連絡が取れてない。  心配性だからきっと今頃騒いでるなとは思うが、何しろずっと横には江口さんがいる。  そして、今二人で並んで大浴場、まあ、男同士だし。変なことにはならないはずなんだけれど。  突然つつっと、江口さんに触られた。驚いて「あっ」と、小さく声が出た。  「何?上原、弱いのここ?」  「何してるんですか!江口さん」  「いや、お前綺麗な肌だと思ってさ」  ここに主任いたら飛び出してるなと思う。悪気がなくてもこれセクハラにならないのだろうか。男だから関係ないのか?  浴衣を羽織って向かいあって食事をする。二人で泊まるには十分な広さだけれど、同じ部屋ってどうなのだろう。  何もない、俺が意識しすぎているだけだ。大丈夫。  「ほい、お疲れ。少しなら飲めるだろう?」  手渡されたグラスビールを一気に飲み干す。風呂上がりで喉が渇いていたから染みる。  食事も美味しい……。  ……あれ?気持ち悪い。  くらくらする、何だこれ。  景色に黒い縁取りができてきた。  「……」  「どうした?上原、顔色悪いぞ。具合でも悪いのか?」  何だこれ、ふわふわとする意識がぼやけてきた。すっと江口さんの手が頬を包み込んだ。  その手が触れたとこに強い電気が走った、身体がぴっくっと反応した。  何?    いったい何が起きている?  ……まずい、……これ……駄目だ。  主任、助けてください、そう叫びたくても何故か声が出ない。  自分の意識がだんだんと薄くなっていくのが分かる、呼吸がつらい。  「うえはらぁー、どうした?ああ、もう効いてきたのか」  きいて?  何が……そこで俺の意識はぷつりと切れた。

ともだちにシェアしよう!