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第273話 蓮
「ビジネスホテルをって頼んだんだが、工場長が気を回してくれてさ。まあ、予定外の仕事のご褒美もらったと思って楽しめ」
何故か日本旅館に江口さんと二人で泊まる事になった。
ぎりぎりまで工場で自分に出来るサポートをしようと、残っていたので主任にも未だ連絡が取れてない。
心配性だからきっと今頃騒いでるなとは思うが、何しろずっと横には江口さんがいる。
そして、今二人で並んで大浴場、まあ、男同士だし。変なことにはならないはずなんだけれど。
突然つつっと、江口さんに触られた。驚いて「あっ」と、小さく声が出た。
「何?上原、弱いのここ?」
「何してるんですか!江口さん」
「いや、お前綺麗な肌だと思ってさ」
ここに主任いたら飛び出してるなと思う。悪気がなくてもこれセクハラにならないのだろうか。男だから関係ないのか?
浴衣を羽織って向かいあって食事をする。二人で泊まるには十分な広さだけれど、同じ部屋ってどうなのだろう。
何もない、俺が意識しすぎているだけだ。大丈夫。
「ほい、お疲れ。少しなら飲めるだろう?」
手渡されたグラスビールを一気に飲み干す。風呂上がりで喉が渇いていたから染みる。
食事も美味しい……。
……あれ?気持ち悪い。
くらくらする、何だこれ。
景色に黒い縁取りができてきた。
「……」
「どうした?上原、顔色悪いぞ。具合でも悪いのか?」
何だこれ、ふわふわとする意識がぼやけてきた。すっと江口さんの手が頬を包み込んだ。
その手が触れたとこに強い電気が走った、身体がぴっくっと反応した。
何?
いったい何が起きている?
……まずい、……これ……駄目だ。
主任、助けてください、そう叫びたくても何故か声が出ない。
自分の意識がだんだんと薄くなっていくのが分かる、呼吸がつらい。
「うえはらぁー、どうした?ああ、もう効いてきたのか」
きいて?
何が……そこで俺の意識はぷつりと切れた。
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