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第275話 蓮

 目が覚めると、一人で布団に寝ていた。江口さんは?と、見回すが誰もいない。  そして、身体を起こして自分が下着一枚、ほとんど裸で布団にいる事に衝撃を受けた。慌ててメガネを探すが見つからない。どうやってここまで移動したんだろう。  昨日の夜、何故か気持ちが悪くなって、そのまま意識が消えたのは覚えている。頭がずんずんと音がするように痛む。  何も思い出せない。確かに浴衣を身に着けていたはずだ。  ビールと日本酒を少し、それだけで意識が飛ぶほど酔ったとは思えない。  確かに酔うと服が邪魔くさくなる。でも昨日は酔ってないと思うのに、まさか脱がされた?いや、自分で脱いだ?それさえもわからない。  何があったのか、何も無かったのか。  思考の渦にのまれていたら、江口さんが部屋に戻ってきた。  「おはよう上原、昨日酔い潰れてたけど二日酔いはないか?」  大丈夫、いつもの江口さんだ。何も変わらない、何も無かったのだ。  「あのすみません、眼鏡が見当たらなくて。その辺りにありませんか?」  「ああ、はいこれね。しかしお前、色白なのな」  その言葉にドキリとする、でも何を聞けば良いのだろうこの状況で。  「すみません、今すぐ支度します」  「そう?俺、ちょっとタバコ買いにいってくるわ」  江口さんが出た隙を見て、服を探す。  食事をしたテーブルのところに丸まったネコのような塊が俺の昨日身につけていたものだった。  ここで脱いで布団へ移動した?いや、眼鏡なしでは歩けない。どんなに酔っていても必ず枕もとになるはずだ。どういう事だろう。まさか……江口さんと何かあったのか。いや、どんな状況でも俺が主任以外に手を伸ばす事はない。  ただ、意識が消える前、身体が熱くて仕方なかった事は覚えている。それを考えると、また頭が痛くなった。

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