277 / 336

第277話 蓮

 「あの…匠さん?江口さんは何もしてないですよ。体に違和感も無いですし……」  無言で怒った主任が服を引き剥がす。  「匠さん!本当に何もありませんでした。自分の体ですから、そのくらいのことはわかります」  「何かはあっただろう!お前、何飲まされたんだ。二度とあいつとは二人きりになるな」  急に力の抜けた主任が力強く俺を抱きしめてる、主任の荒い呼吸と速い心音だけが響いてくる。  「あいつの……俺への敵意がお前に向いたんだ」  震えているのか?主任が?そっと手を主任の背中に回した。まるで子どもをあやすようにゆっくりとその背中を撫でる。  「約束します、業務命令でも二度と江口さんと二人きりにはなりませんから。俺のガードも甘かったんです。大丈夫ですから、匠さんが傷つくのは嫌なのです」  嬉しい、俺がここまで主任をおかしくしてるんだと思うと、その事実に変な満足感を感じる。  「匠さん、全身で匠さんを感じたい……です」  主任のシャツの中に手を忍ばせる。  「蓮……俺今日は本当に手加減ができそうに無いんだけれど」  手加減?そんなの望んで無い。今俺が感じてるのと同じ思いで、俺を求めて欲しい。  「匠さんになら、何をされても怖く無いですよ」  苦しいくらい抱きしめられて、口づけられた。  「お前に何かあったら俺は生きていけないんだ、それだけは忘れないでくれ」  耳元で囁く主任の声がいつもよりも更に熱を持っていて脳内を犯される。「んっ」と、声が出た時に耳を軽く噛まれた。  その瞬間に身体に火がついた。消してもらわなくては心が火傷してしまう。

ともだちにシェアしよう!