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第283話 蓮
「おかえりなさい、匠さん。匠さん?」
あれ、主任の雰囲気が何だか変だ。
「蓮、こっちへ来い」
えっと驚く間もなく、壁際に押し付けられ逃げられなくなる。こうやって主任が、らしく無い行動をするときは何かある。両方の手首を掴まれ壁に強く押し付けられたまま、理由の分からない怒りに駆られている主任と対峙しているのだ。
「お前、江口に何か言われているのか」
何の事?帰ってきたと同時に尋問されているような状態だが思い当たる節が何もない。
江口さんが、冗談交じりに絡んで来るのは、いつもの事なので気にもしなくなってたから、主任の怒りの理由が見えなかった。
「江口だよ。蓮、正直に言え」
「えっ?え?あの……いつもふざけて、付き合ってみるかと言われたりはありますけど、江口さんの冗談ですし。からかわれているだけですから」
「それが冗談じゃなかったらどうするんだ」
何がどうして、こうなったのか分からない?怒りの元が不明だから切り崩せ無い。
「匠さん、何も無いに決まってるでしょう!」
いきなりどうしたんだろう。
「蓮の写真が、あいつの携帯の中にあった。お前、知ってるのか?」
俺のしゃ…しんって???
一度大きく怒りを吐き出したようで、主任も少し落ち着いて話が出来た。何故かこの前の出張のときの俺の寝顔(主任は裸体って言うけど、上半身だけだって言うし、俺男だし)が携帯に残っているらしい。
後で消させようとして生産管理部まで来たら、江口さんと俺が会議室に二人でいると言われて、一日悶々と過ごしていたと言う。
それで、今に至るって。それで、こんなに怒るって。まあ、仕方ないかも。逆だったら俺もやっぱり嫌だから。
「匠さん、写真は消してもらうよう自分で言います。他にもあったら嫌ですし」
正直、あの時の事を思い出すのはあまり嬉しく無い。かなり身体が熱かった。変な事になっていないとは思うけれど自信が無い。でも、そんな事は主任にはとても言えない。
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