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第285話 蓮

 「江口さん、おはようございます。お話があるのですが」  「んー?やっぱ聞いたか?だよねえ。つい意地悪したくなるのよ、田上って。何で俺の欲しいものは全部あいつに持ってかれるのかなってさ、そう思わない?」  携帯を見えるように弄りながら返事する、本当にこの人は面倒だと思う。  「上原、その話は今日の帰りでいい?七時半に駅前のシャークスだな」  そう言われ仕方なく了承した。主任に報告したらきっと一緒に来るって言うだろう。  あの日本当に何もなかったのか、それが自信が無くて少しだけ怖い。万一にもそんなことは無いとは思うけれど、何か間違いがあったとしたら。記憶は無いし、絶対に無いとは思うけれど主任と一緒に行くわけにはいかないのだ。  何も言わなくても、帰ってから食事をすれば、主任も何も気づかないし何も言わなくても問題無いはずだと思った。  「写真って……いつ撮ったんですか。消してください」  「上原、お前何飲む?」  「ですから写真を……」  「俺、腹ペコなんだけど。ここのグラタン美味しいよね。けど、他にも食べたいのあるし。お前、半分食わない?」  「あの、江口さん!」  「ん?食べられないものとかある?すみませーん。とりあえず生ビール2つ!」  「写真のことはどうするんです!」  ようやくまともに目を合わせてくれた。江口さんはにやりと笑うと、「デートが終わってからな」と言った。  デート?  そんな話は聞いてない。  「写真だよな、お前寝姿色っぽいな。ゾクゾクする。見る?田上に見せてない方もあるけどね」  「こ、これは……携帯貸してください、自分で消します」  すっと携帯は江口さんのジャケットのポケットの中に入った。  「言ったろ、デートの後でな」  これはややこしいことになりそうだと、頭が痛くなってきてしまった。

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