286 / 336
第286話 匠
上原に「今日は何時に帰る?」そうメッセージを送ったが返信が来ない。こういう時は、必ず探した方がいい。
あいつは放っておくと、暴走する。俺もこの一年で学んだ。
携帯を鳴らすとすぐに上原が電話に出た。江口と一緒にシャークスに居ると言う。話している途中で江口が上原から携帯を取り上げたようで電話口から不快な男の声がした。
『田上?ちょっとだけ貸してよ。ちゃんと傷つけずに返すからさ』
「今から迎えに行く、そこにいろ。どこへも移動するなよ」
『嫉妬深い彼氏は嫌だね。本当にちゃんと返すって。あと1時間したら家を出ろよ』
「馬鹿を言え、前科があるんだよお前には。すぐに行くから」
車の鍵を手に持って準備する。上原は「俺に興味を持ってくれて、惹かれてくれるのは匠さんだけですから」と、いつも笑って答える。そんなことはない、今だってそうだ。
あの時も……ふと顔を上げた福田が思い出したように言ったあのセリフ。
「田上さん、上原さんって無自覚過ぎですよね。最近、色気だだ漏れですよ。知ってます?社食で笑ってたのを見てたの私だけじゃないですよ」
私だけじゃないって……お前はどんな目で上原を見てたのか?そうて突っ込みたくなったのはさて置き、確かに子供のような元気さだけが取り柄だった上原は少し柔らかくなって、ふと男を誘うような瞳をする事がある。
酒の席で、好意を持った相手と二人きりなんてあり得ないという事がいつになったらわかるんだ。
ともだちにシェアしよう!