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第288話 匠

 上原と付き合っていると次々と横槍が入る。  こいつが悪いのか?それとも俺が足りないのか?  俺のものだと印をつけておいても、何の役にも立ちそうにも無い。  「蓮、おいで。」  手を引いてバスルームへと連れて行くと、恥ずかしそうに少し俯く。目尻が少し赤くなって瞳が揺れている。ああ、誘われる。ぞくぞくとした感覚が鳩尾のところへとあがってくる。もう自分ではコントロール出来ない欲望が全身を支配する。  バスルームに押し込んでシャワーを浴びながら、上原の身体中に薄紅の花びらを散らす。  「江口はお前の右隣に座っているんだよな」  そう言いながら首の右側にシャツでギリギリ隠れるか隠れないかの位置にしっかりと印を付ける。  「えっ?」と、上原の驚いた声がした。  「俺のものだ」  「他の人のものになったことはありませんけれど」  不服そうに言うが抵抗はしない。  「何かすごいことになってませんか?これじゃ温泉へは行けないですね」  そう言ってクスクスと笑った。  「他の男にお前へはを見せる気は無いから。個室で部屋とってやるから大浴場を諦めればいいだけの事だ」  「まあ、行く予定もありませんけど、実家にもしばらく襟の詰まった服じゃなきゃ帰れないですね」  呆れたような声で言いながら自分の身体中についた紅いあざを愛おしそうになぞる上原がいた。  その仕草を見た時に、箍が外れた。  今日はまだ週の中日だから、無理はさせないとブレーキをかけてくれるはずの理性は粉々に砕け散った。  明日は会社まで車で連れて行けばいいだけの事と、耳元で誘惑の女神が囁いた気がした。

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