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第289話 蓮

 翌日、会社に行くと相変わらずの江口さんがいる。  「おはよう、上原」  肩に自然に置かれた江口さんの手を強く払う。  「おはようございます」  「あ、俺さ約束だから写真は消したけれど、諦めるって約束はしてないからな」  耳元で小さく囁かれて睨みかえした。  「他をあたってください」  「他って……何、お前がもう一人いんの?」  いやいや、本当に面倒な先輩だ。それなのに、自分はいかにもまともですと言わんばかりの笑顔で話しかけてくる。それでも嫌いになれない優しさと人懐っこさがある。  ため息をひとつついた。  「江口さん、ライン管理表とフローチャート作成しましたらから、確認お願いします。ライン別のがこちらです」  「ありがとう、会議室でいいかな」  「そうですね、会議室のドアは開けておきましょう」  くっと笑うと、肩をすくめて江口さんは立ち上がった。全く懲りない人だ。  「なあ、田上って意外と独占欲強いのな」  会議室に入った途端に、江口さんが首を指差して言った。  あっと思って慌てて首を押さえてしまった、その時ににやりと江口さんが笑った。しまった、自己申告してどうするんだ俺。  「あいつは、他人の事なんて気にしないってタイプだと思ってた」  「やめて下さい、ここ会社ですよ」  「じゃあそんな目立つところに跡つけて来んなよ、かえって煽られるわ」  男にしか俺はモテないような気がしてきた。主任以外に誰の手もいらないから良いのだけど。それでも少し情けなくなった。  どこから見ても守ってあげたいってタイプではないのに、それともそうなのだろうか?

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