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第293話 蓮

 主任のお母さんは優しそうな女性だった。いつかきっと直接、主任と話ができる日が来るとそう思う。  撮らせてもらった写真の男の子は主任に似ている。その写真を主任の携帯に転送すると「ありがとう」と軽く額に口付けられた。  「こ、ここ、外ですよ!」  「ああ、そうだな」  悪戯っこのような笑顔で笑われた。良かった、いつもの主任だ。  「蓮、今日はもう疲れた。そろそろお前を補給させてもらわないと持ちそうにないんだけど。今日もとても美味しそうだし」  「匠さん、発言がオヤジ化しているのですが」  「何を言われても、可愛いだけだと言ってるだろう。きちん個室付きの温泉宿を予約してあるから大丈夫だよ」  どうして、さらっとこういうことを言うのか、恥ずかしくて仕方ない。主任はさっさと表通りに出てタクシーを止めた。  旅館の入り口は連休とあって人が多く、事務的に事が進んでいく。  部屋の鍵を受け取ると、主任は案内の仲居さんについて歩き出した。慌て後をついていく。主任の予約してくれた部屋は離れで入り口の騒めきも聞こえない。  「すごく綺麗な庭ですね」  つい嬉しくて声が出てしまう。仲居さんが微笑んでこの庭は……と、説明してくれた。男二人で離れに泊まるってどう見えるのだろうか、心配になる。兄弟?には、きっと見えないだろうし。  「お夕飯は七時と承っております。少し前に準備に参ります」  そう言い残すと仲居さんが出て行った。それと同時に主任の腕の中に囲われた。  「蓮、今日は本当にありがとうな」  首筋に顔を埋めて主任が囁いた。その声のトーンが直接ずんと重く腹の底の方に響く。するすると、服の下に手が潜っていく。  「お風呂!汗をかいたので、お風呂に入りたいのですが」  一生懸命に身体を引き離そうとしても、しっかりと抱きとめた主任の腕は力強く解放してはくれないようだった。  「蓮、もう少しこのまま動かないで、今補給中」  首筋を軽く噛まれて「んっ」と、声が漏れた。

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