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第296話 匠
旅行の後、上原の実家に二人の小旅行のお土産を持って行った。
うるさい小舅状態のザックとやり合うのも、もういつもの事となっていた。
「いい加減、別れればいいのに」
こいつは本当に小賢しい。上原の家族に聞かれたく無い時は、早口の英語で俺に直接言う。その時、いつも目は笑ってるのにセリフは辛辣だ。
上原が食事の支度を手伝ってきますからと、立ち上がっるとザックはその後ろ姿を目で追う。この一連の流れが一番気に入らない。
「ザック、覚えておけよ、蓮は俺のものだから」
「は?蓮はものじゃ無いから。俺の方がいいと言ったらどうするつもりなの」
「絶対にあいつは言わないね」
そう、あいつは俺にしか。確かにそう誓った、そしてそれは永遠であると思っていた。
すべてを昨日の事のように思い出せる。
少なくとも俺は……。
けれど、上原にはこの日の記憶も、俺と過ごした全ての日々の記憶がないのだ。
休みも終わり日常が戻り、上原が俺の腕の中にいる事に安心していた。それが当たり前だったはずだった
あの時、上原を一人にしなかったら、現状は違ったのだろうか?
どうしたら良かったのだろうかと取り返せない過去を悔やむ、一人になってしまったマンションはがらんとしてあまりにも寒い。
「蓮、頼むから帰ってきてくれ」
誰もいない部屋の奥に向かって声をかけた。
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