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第301話 蓮

 田上さんは同じ会社の人だと言うのは理解した、けれども働いていた部署も違うし年齢も違う。どういう知り合いだったのでしょうかと聞いてみると「思い出して欲しいけれど、押し付けたくは無い関係」と言われた。  押し付ける?その言葉の裏に何があるのか計りかねてしまう。時折香る懐かしいような木蓮の花の香り、祖父の家にある木と同じ香りを纏った不思議な存在だ。  田上さんに会うとなぜか安心する、ぼんやりとそんなことを考えていた。  「蓮、今日学校でさ……聞いてる?」  「あ、ごめん。ザック、なんだったっけ?」  「今考えてたのタクミの事?」  「え!あ、いや……」  「俺といる時はこっち見ててよ、それじゃ無くても不利なんだから」  最近、ザックはことあるごとに結婚しようね、約束だからとふざけて言う、可愛い弟がじゃれているだけなのだが時折見せる表情が何故かせつない。  ザックの頭を昔のように撫でたら、強く手を払われた。  「あのさ、いい加減子供扱いやめてくれる?春には大学生だし」  ザックは日本の大学に進学するらしい、すでに進学先も決まっている。  「明日から大部屋に移るんでしょ、蓮?」  そう言うとザックはベッドシーツの下に手を入れてきた。  「な、何してるんだ!」  「手伝ってあげるよ」  手伝ってって……どこ触って。手を押しとめると、泣きそうな顔をしたザックがいて身動きが取れなくなった。  「こんなに好きなのに」  「俺もザックの事大好きだよ」  そう言った瞬間に口づけられた。軽く頬にキスをするのはいつもの事だけど、今日は違う。押さえつけられた力の強さに、いつの間にか体格も逆転していた事に気付いた。もう可愛い弟のザックはここにはいない。  「ザック離して」  下からぐいと体を押し上げる。瞳に映ったのは一人前の男だった。

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