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第303話 蓮
ザックの力が思ったより強く、驚きもあって抵抗ができなかった。怖くなり身を縮めたときにようやくザックの腕から力が抜けて、身体が解放された。
「ごめん、蓮を怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ腹が立ってどうしようもなかった。俺が何年も蓮の事を思い続けているという事実まで忘れてしまったなんて」
ザックの言葉に何も返せなくなる、一体いつからか弟じゃなくなっているんだ。
「ザック、毎日欠かさず来てくれて本当に嬉しいよ。記憶の消えた部分で俺とザックの関係性はが変わっていたのかな。本当にごめん何もわからないんだ」
「もしも、俺たちが恋人同士だったんだと言ったら、蓮はどうするの」
冗談を言っているのではない、その目は真剣にそのもの。俺とザックが恋人?どういう事だろう。
恋愛の対象は女性のはずだ、けれどザック嘘をつくなんて思えない。もしかして本当にそうなのか?ただそれを自分が覚えていないだけなのだろうか。
いや違う、そもそも論が違う。少なくとも自分自身の恋愛対象が女性以外だとは考えた事もない。
「……う、嘘だ。え、俺がザックと……」
けれどたった今、躊躇なく俺の下着の中に手を入れてきた行為もいつもの事だったのだろうか。もしも俺たちが恋人だったとしたら?さっきの口づけだってそう言う意味なのだろうか。
「悪い、本当にごめん。頭パンクしそう、ザック、悪いけど帰ってくれないか」
ザックは何も言わずに静かに部屋を出て行った。俺の恋人がザック?確かにここ数年の記憶がない。
万一、今恋人がいたとしたら、これだけ入院していて連絡の一つもよこさない事はないだろう。
携帯に届くメッセージは友人と思われる人からのみ。
……だとしたら、俺の失くした大切な記憶があるのだろうか。
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