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第314話 蓮

 今日はなんだか変な一日だった。あの田上さんの態度も何だったんだろう、そして自分のあの気持ちも……そんなことを考えながら眠りについた、そして夢を見た。誰かに優しく抱かれる夢。  目が覚めてショックで動けなかった。俺って、まさか、相手が誰だったのかは、わからないけれど、確かに誰かの腕の中で安心していた。    あり得ない、普通に彼女もいたし、可愛い女の子は好きだし。でも昨日の夢は何だろう?あんなに幸せで、満たされた気持ちになったことはない。  朝起きてしばらくはショックで動けなかった。そもそも、家族は何も教えてくれないってことは誰も知らないのか?  単なる夢?違う、何より自分の身体が反応してしまっている。これはどういう意味なのだろう。  昨日は一日中、田上さんと一緒で変に緊張していた覚えもあるしそのせいで変なのか俺。身体を起こして頭を抱え込んでいたらザックが入ってきた。  「蓮、おはよう。ん、どうしたの?具合悪いの?」  大丈夫だから出て行ってと答えた俺の言葉を無視して、ずかずかと部屋に入ってくると両手で顔を包み込んだ。じっと俺の目を覗き込んだ、そしてザックは泣きそうな顔になった。  「そうだよね、俺じゃ無いんだよね。愛してるずっと、何年も。だけど俺じゃ無いんだよね蓮が欲しいのは」  「えっ?どう言う事?」  「蓮が抱かれたいのは俺じゃ無いでしょう」  抱かれるってザック、俺も男だけど。ゆっくりと今起き上がった布団へと身体を押し倒される。両肩の上に乗ったザックの手が大きくて、力強い。  「ザック、止めて」  「やめない、一度忘れてもまた匠に戻るの?どうして俺じゃ駄目なの?こんなに苦しいのに」  「匠に戻る?」それは、田上さんと……。  まさか……あり得ない。  「ザック、これは本当に望んでいる事?だったら、俺どうせ逃げられないし。好きにすれば良い」  その答えにザックの腕から力が抜けた。  「ごめんなさい、大学からは独り暮らし始めるから安心して。蓮が幸せにならないと俺も先に進めないんだな、よくわかったよ。匠のとのところに戻りなよ」  静かにザックは出て行った。

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