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第317話 匠

 使っていなかった部屋、つまり蓮の単なる荷物置き場だった部屋に新しくシングルベッドを入れた。  一緒に眠るわけにはいかない。  「間借りしていたんですね、この部屋に住んでいたのですか?」  上原は真新しいベッドを訝しげに見ていた。  首をかしげると、うーんと考え込んでしまった。  「蓮、どうかしたの?」  「あ、いいえ。何でもありません、これからお世話になります。生活上のルールって何かありますでしょうか」  「嘘はつかない、何でも俺に相談する事。それだけだよ」  「あの……家事の分担はどうだったのでしょうか、台所に立ったことないので」  「ああ、家事ってか、うん出来ることはやっていたよ。あのエプロンお前のだし」  指差した先にはピンク色のエプロンが下がってる。  「ええっ!」  目を大きく見開いて驚いている。いつもつけてたわけじゃ無いけど、まあいいか。からかうと、いちいち反応が可愛い。やっぱり俺の可愛い仔犬には変わりない。  「しばらくは無理しない程度というより、もともと家事は俺が中心だったから慣れているし。蓮は俺の話し相手でもやっててくれればいい」  「はい」と、可愛く笑う姿に理性がぐらりと揺れているのを感じた。  「蓮、ここに座って。疲れただろう」  ソファに上原を座らせたる。ああ、ここに上原がいる。そう思うだけで鳩尾の所に熱いものが集まってくる。  「田上さん?どうかしたのですか?」  下から見上げる顔が誘ってる。これは生殺しだ、きつい。  「もしも不快だ、嫌だと感じたり、距離が近過ぎると思ったらすぐにそう言って。何処までの距離なら大丈夫かよく分からないんだ」  「田上さんのそばに居るのはとても心地良いですよ」  そうだった、こいつは最初の頃もこうやって。  ……無自覚に俺を誘う上原を押し倒したい衝動にかられた。

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