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第319話 匠

 「蓮、なあ風呂もう入ったの?いつもシャワーだけだよな?風呂好きじゃなかったっけ?お湯に浸かると楽じゃ無いか?」  そう聞くともごもご口ごもるようにして答える。  「あの、お湯を早い時間に溜めてしまうと、その田上さんが帰ってくる時間と合わないですよね。それで……」  俺が帰ってきてから風呂って不都合か?別に湯上りの上原を襲うつもりは無い。確かに少し上気した顔はそそるが。  「構わないよ、早い時間に入る方がいいのなら早い時間にお湯をはってしまえばいいし、俺がいる時間に風呂に入っても何も構わないんだが、俺は何時でも大丈夫だから」  「あの、そうではなくてですね。……だ、脱衣所が…その服を……」  ああ、気が付かなかった。こいつはまだ片足では立てないし、座った状態でなければ服も脱ぎづらいだろう。そして、脱衣所には座る場所も無い。俺はバスタオル一枚で寝室まで移動するが上原はそうはいかないだろう。  「早く言え、何でも俺に相談するのがルールだろう。俺が手伝ってやるよ」  「え、ええっ?」  「あ、毎回脱衣所にイスを持って行ってやるよ」  「……そうですよね」  本音は脱がしてやりたいけれど、自分の勘違いで耳まで真っ赤になる上原を見て満足する。それは脱がしてもらうのを一瞬でも上原が考えたということ。  「ねえ、キスしてもいい?」  上原は何も答えない、下を向いてじっとしている。そばに寄って、柔らかく抱きしめてみる。上原の身体が一瞬強張った、ああ駄目だ。力を抜いて開放してやる。  「はい、悪い冗談だ。言ったろ、嫌なら断れ。抵抗しないと止まらなくなってしまうよ」  上原、俺もギリギリなんだ。仕方ないと、頭をポンと軽く叩くと気持ちよさそうに目を細める。ああ、変わらない。やっぱり俺はこいつがいい。こいつじゃなきゃ駄目なんだ。

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