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第321話 匠
ああ、これだ、この手触り……
上原の……え、えっ、上原?なぜここにいる?
「蓮っ、起きろ」
「んー?」と寝ぼけた声を出す。嘘だろう、これを我慢しろと言うのが無理。焦点の合わないこいつの目。直接腰にくる。
目を覚ますと、何故か腕の中に上原がいた。昨日の夜は確かに自分の部屋に入っていくのを見た。
酒も飲んで無いはずだ、どういう事だ?
「え、あっあれ、田上さんどうしてこのベッドに寝ているのですか」
「違う、ここは俺の寝室だ」
びっくりしていきなり大きな目を見開いた上原が、上体をがばっと起こした。
「えっ、え?お、俺、何で……」
夜中に寝ぼけてトイレにでも行ったのだろうか。無意識にこの寝室へと足がむいたのだろうか。
まだ日も昇らない薄明かりの部屋の中で好きなやつと同じベッドの中にいる、この状況はまずい。
蓮が全てを思い出すまでは、手は出さないとご両親にも誓ったはず。
理性と欲との折り合いがつかない。上原は驚きすぎて動けない、そして自分の呼吸が上がってくるのがわかる。
もうどのくらい上原に触れていない、もうどのくらい。
「蓮、お前はどこまで俺を煽れば気がすむんだ」
「あ、あの、すみません、すぐ出て行きます」
慌ててベッドから降りようとする上原の腕を掴んだ。
「まだ足自由にはならないだろう、また怪我をする。落ち着けよ、俺は怒ってはないから」
ぐっとベッドに引き戻したら、腕の中に戻す形になってしまった。じいと俺の事を見ていた上原が大きく息を吸い込んだ。そして何か言おうと口を開いた。
何か上原が言いだす時の顔だ、何もまだ言われたくない。話しだすその口を塞いだ。プラスの話なら、自分から先に言わせて欲しいし、マイナスの話なら聞きたく無い。
いきなりの口づけに顔を背けるかと思っていた。だが上原の唇が緩く開いて俺の舌を誘い込む。
陽が昇り少しずつ明るくなってきた部屋の中で、真っ赤になる上原が見えた。
もう約束も理性も全て邪魔なものにしか思えない。シャツの隙間から手を滑り込ませその身体を直接確かめるように撫でる。背筋を上から下へとたどると、背中が反り返り身体の中心が合わさるようになる。
感じているのは俺だけじゃい。それとも単なる生理現象なのか。貪るような口づけに上原の呼吸は速くなり、心音が強く速く伝わってきた。
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