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第322話 蓮

 ゆっくりと身体を横たえさせられた。怪我をした足に体重がかからないように気をつけくれているのが分かる。  田上さんが好きだと自覚した途端に触れられたところが熱くなる。  「田上さん……あの、怖いです」  怖いのは自分の気持ちを肯定すること。  「大丈夫だよ蓮、ここは忘れていても」そう言いながら頭を指さされた、次に俺の胸を指差して「きっとここは全部覚えているから」と言われた。  この笑顔が俺を後押ししてくれる。大丈夫、俺はいつもここにいる。そう言っている気がする。  ああ、この感覚何だろう、とても心地いい。好きかもしれないと思った昨日の夜から触ってもらいたくて、触りたくて仕方なかった。  何故こんなに田上さんの手は安心するんだろうかと思う。  自分でも緊張して身体に力が入るのが分かる。田上さんは俺の様子を伺うようにゆっくりと触ってくる、ぴくりと動くと、一瞬止まって田上さんが微笑む。  「蓮、嫌ならそう言って、止まらなくなる前に。そろそろ体も気持ちも俺は限界なんだよな」  大切にされている、大丈夫。けれど恥ずかしい、部屋の中はだんだん明るくなっていく。自分の心音が恥ずかしくて視線を逸らすと、俺の手を主任がとって自分の胸に導いた。  手から伝わってきたのは、強くそして俺と同じように早鐘のように響く田上さんの心音。  「蓮、俺も同じだから」  そう言われて何故か涙が出てきた、本当に俺はこの人の事を忘れているのだろうか。  頬に伝わる涙を舐めてとられた。  「ようやく力が抜けたね、大丈夫今日は無理させないから安心してて」  髪を撫でられて心臓が苦しくて壊れそうになる。  「田上さん、好きです」気がついたら声になっていた。

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